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001◆フライディと私(直接ジャンプ 
 
【 2 】(直接ジャンプ 6. 7. 8. 9. 10. )
 
6.
 段々外が暗くなってきた。なんだか寒くなってきた。突然帰ってきたフライディを見て、私はまた悲鳴を上げた。
「そんなに怖がられるとショックだな」
「だって顔が怖い」
「うわ、もっとショック」
「髭はえてるし」
 私は歯を鳴らしながら答えた。フライディが不意に私の腕を掴んだので、また悲鳴を上げて全身をこわばらせた。
「ロビン。君、熱があるみたいだ」
 
 それは私にとってこの島で過ごした中で一番辛い晩だった。布団の代わりにあるのはウェットスーツだけ。その上からフライディが暖めてくれたけど、私の寒さには追いつかなかった。
「頭痛い、寒い、熱い」
 私は例の廃墟の中でフライディに抱かれて繰り返しそううめいていた。フライディはときどき額の熱を測ってくれていた。
「ごめんね、君のためにできることがあまりなくて」
「家に帰りたい」
「そうだね」
 そうやって、私のうわごとのような泣き言につきあってくれたフライディは、私が熱くてたまらなくなると今度はウェットスーツを脱がせてあおいでくれた。
 
7.
 フライディの献身的な看病のおかげか、もともと日焼けかショックで出た熱だったのか、私の熱は翌朝には下がった。それからフライディと私は寝不足に耐えられなくなって少し寝ることにした。
 
 起きた時はまた一人だった。ちょっと心細くてきょろきょろしていたら声をかけられた。
「おはよう」
「きゃあっ」
「ひどいな、人の顔を見るたびに悲鳴をあげるなんて」
「だって顔が違うよ、フライディ」
 フライディは、昨日私を驚かせた髭を短く切って現れた。髭のないフライディは思ったよりずっと若かった。それになかなかのハンサムだった。
「顔が怖いと言われちゃったからね。レディの前でだらしない格好をしてると失礼だし。でもナイフの刃じゃこの程度しか切れなかったからこれでご勘弁下さい」
「私――あなたと会うの初めてだよね?」
 何故だろう。彼の顔を見るのが初めてじゃない気がした。
「デジャヴっていう奴かな。僕と君は生まれる前から出会う運命だった――なぁんてね」
 そんな下らない軽口も昨日ならきっと腹を立てたのに、なんだかどきっとしてしまった。自分でもあんまり見た目に弱すぎだと思った。
 
8.
 こうしてフライディと私の『原始的採取生活』は始まった。
 
 救助を待つ日々は何よりも退屈が辛かった。雨風がしのげて、食料と水と話し相手兼召使まで用意された無人島に流れ着いた幸運を何とも思ってないのかとフライディにからかわれたけど、既に得たものへの感謝はなかなか難しい。
「フライディの仕事は何?」
「今は兵役中。その前は色々」
「へえ。楽しい?」
「どうかな。ロビンは? 学校は楽しい?」
「友達と会えるのは楽しい。でも勉強はあんまり好きじゃない。特に数学が嫌」
「数学、苦手なの?」
「二次方程式を習ってる時につまづいたの。試験が終わったからもういいやと思ったのに、忘れた頃にまた二次方程式が出てくるから」
 フライディがにやっと笑った。
「じゃあ、お互い暇をもてあましてることだし数学の勉強でもしようか」
「えええええっ!?」
 冗談だと思ったけど、冗談じゃなかった。フライディはむちゃくちゃ数学が得意だった。砂浜に枝で問題を書いては私に解かせた。
 最初は全然できなかったけど、他にやることがないからさすがに私にも段々正しい解が分かるようになった。やったと喜んでいたら「今日からは三角関数」と言われてがっくりきた。まさか無人島に家庭教師がいるとは思わなかった。
  
9.
 私の無人島生活は、フライディがいなければ成り立たなかった。私一人だったらホテルも水も食べ物も見つけられずに死んでたかもしれない。軍でサバイバル訓練を受けたら君にもできるよ、と言われたけど、それだけじゃなくてフライディは本当に色んなことを知っていた。私を子ども扱いするフライディに時々我慢できないくらい腹が立つこともあったけど、やっぱりフライディと比べると私は何も知らない子どもだった。
 寝るときもフライディと一緒だった。夜から雨が降ることもあるので、廃墟とはいえ建物があるのはありがたかった。フライディが手をつなげる距離にいてくれたのは、私が頼んだからだ。明かりのない夜に目が覚めても、名前を呼べばちゃんとフライディが答えてくれた。フライディは本当に頼りになる大人だった。
 フライディはよく一人で平気だったね、と言ったら彼は笑っていた。そりゃあフライディは大人で私は子どもで、フライディは男で私は女だから、笑われてもしょうがないかもしれないけど。おんぶにだっこが時々たまらなく恥ずかしかった。
 
 その日は夕方から風が吹いて、雨が降って、夜になって雷が鳴った。夜中に目が覚めた私はフライディが硬く縮こまっているのに気づいた。
「フライディ? どこか痛いの?」
「大丈夫」
 フライディは私を安心させるためだけにそう言ったのだと分かった。フライディの手を握ると汗をかいていた。
「どこが痛いの? 気持ちが悪いの?」
「大丈夫……ちょっと、雷の音がね」
「嫌いなの?」
「事故を思い出す」
 
10.
 フライディはこの島にいるのが訓練中の事故のせいだと言っていたけど、どんな事故だったのか詳しく教えてはくれなかった。
 私はフライディの頭を抱きしめた。私にできることは大してないけど。こんなことしかできないけど。そばにいるから。
……ありがとう」
 小さな声でそう言うと、フライディは私に腕を回した。昼間はいつも自信たっぷりでふざけてて何でも一人でできるから、フライディが辛い思いをしてるなんて全然知らなかった。私がここに来てからこれがはじめての雷じゃなかった。もっと早く気付けたら良かったのに。
 
 フライディは結局雷が鳴り止むまで歯を食いしばっていた。私に回した腕も時々びくっとした。私は時々フライディの頭をなでながら、そのまま頭を抱きしめ続けていた。雷が鳴り止んでしばらくしたら眠気が襲ってきた。どれくらいの間起きていて、いつまた寝たのか覚えていない。
 
 翌朝起きると、私は一人だった。外に出るとちょうどフライディがフルーツを持って戻ってきたところだった。フライディは元気に私に笑いかけた。
「じゃあ今日もこれを食べたら数学の勉強を始めようか」
「えええっ!」
 
 その後も雷の夜にはフライディとくっついて寝た。フライディは小さな声でお礼を言ってくれるけど、昼間はそのことを一切話題にしなかった。私は一つだけど自分の役目ができたことが嬉しくて、フライディに説明を求めるのはやめた。
 
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