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001◆フライディと私(直接ジャンプ 
 
【 3 】(直接ジャンプ 11. 12. 13. 14. 15. )
 
11.
 ある朝、まだ二人とも寝ている時にいきなり電子音の音楽が鳴り響いた。
「何これっ!?」
 フライディが腕時計をいじると唐突に音楽が止まった。
「誰かが勝手にセットしてたみたいだ」
 フライディが顔をしかめて言った。
「もしかして、フライディの誕生日なの?」
「ああ」
 鳴り響いたのは、ハッピーバースデーのメロディだった。
「誕生日パーティーをすっぽかしちゃったな」
 最初に聞いた時は29歳だと言っていた。
「30歳の誕生日?」
「えっ……ああ、ああそうだよ」
「おじさんだ」
 私がそう言うとフライディが私の頬をむにーっとつまんだ。
「生意気なガキだ」
「ガキじゃないもん」
「僕の半分じゃないか」
「フライディがおじさんなだけ――わわっ、やめてよ」
 私は笑いながら転がり、フライディがぺしぺし叩く手から逃れた。
 
12.
 半分よりはもう少し近いんだけど。でも私が今の倍生きてもフライディみたいにはなれる気がしなかった。果物を干して保存食を作るというのもフライディが言い出したことだ。そういう全てをフライディが決めてくれた。何があるか分からないからだと言われたけど、最初に言われた時はこの島を出られないってことかと思ってすごく不安になった。フライディにそう言ったら大丈夫だよって言ってくれたけど、フライディに大丈夫だよって言ってくれる人はここにいない。
 
 その日も起きてから貝を掘り、果物を干して、数学を教えてもらい、いつもどおりの一日が終わりに近づいていた。
 
「誕生日、おわっちゃうね」
「まあそんなに嬉しい日でもないからね、もう」
「お誕生日おめでとう、フライディ」
「ありがとう、ロビン」
 フライディはちっとも嬉しそうじゃなくそう言った。私は多分フライディに喜んで欲しかったんだと思う。
「お誕生日プレゼント」
 そう言ってフライディの頬にちゅっと音を立ててキスをした。パーティーの席でよくやるみたいに。三角帽子はなかったけど。
――こっちがいいな」
 そう言ってフライディは私をひきよせ、唇にキスをした。
 
13.
 それはあんまり突然起きたから、私はどうしていいか分からなかった。身を硬くした私を離してフライディが後ろを向いた。
「ごめん、ちょっとふざけすぎた」
「今の、なに?」
「なんでもない」
「待ってよ、ねえ、フライディ……どこ行くのよ」
「どこでもいいだろ」
「よくない! 分かんないよ、今の何だったの?」
 私は早足でいなくなろうとするフライディを駆け足で追いかけて食い下がった。
「私達、明日も明後日も二人きりなんだよ。ちゃんと言ってくれなきゃ困る。分かんない」
 フライディは早足で歩きながら怒ったように答えた。
「多分、ストックホルム症候群とかと同じなんだ」
「何のこと言ってるの?」
「二人で仲良く協力した方がこの事態を乗り切りやすい。異常な状況をやりすごすための思い込みだ。そうじゃなきゃキスも返せない子どもに関心なんて持つわけない」
「そんな言い方ひどいじゃないっ! それじゃ私全然魅力ないみたいっ!」
 フライディが急に立ち止まり、私を振り向いて噛み付くように言った。
「じゃあ何て言って欲しいんだよ。君と寝たいって言われたいのか?」
「言えばいいじゃないっ!」
「冗談じゃないよ、勘弁してくれよっ!」
 
14.
 フライディが怒ったところを初めて見た。初めて怒鳴られた。涙が出た。
「ひどいじゃない……どうしてキスされて怒鳴られなきゃいけないの?」
 私はその場にしゃがんで顔を覆って泣き出した。フライディにはたくさん迷惑をかけてきた。きっと私にいらいらしてるんだろうなと思う時もあったけど、いつも明るくてふざけてるフライディは本当に頼りになる人だった。でも私に気を使ってくれてただけで本当はすごく無理してたのかな。君が好きだって言われたかったわけじゃないけど、自分がもっと大人だったらよかったのにって思ったらたまらなくなった。
 
 フライディが私の隣にしゃがんだ。
「ごめん、怒鳴ったりして」
「私がお荷物なのは分かってるけど、いいとこないみたいな言い方しないでよ。私だってせいいっぱいやってるんだよ」
「分かってるよ。君は頑張ってる。数学もサバイバルも」
「大人じゃないけど私だってちゃんと女の子なんだよ。キスだってはじめてだったのに、ふざけてされたなんてあんまりだよ」
「ごめん……ふざけてたわけじゃない。僕は……ただ君にキスしたかったんだ」
「どうして?」
「よく分からない」
 フライディはそこで一度言葉を切って、しばらくしてぽつりと言った。
「婚約者がいるんだ」
 
15.
 唐突な告白だった。それにさっきの出来事の説明には全然なってない。
 でもきっとフライディは、私とこれ以上親密になりたくないって私の前に太い線を引いたんだ。
「君は子どもだし、偶然ここで会っただけだ。島を出たら離れることも分かってる。君にそういう気をおこしてもお互い困るだけだから、できるだけ気をつけてたのに。さっきのキスはふざけてしたわけじゃない、でも色んなことをあの時だけちょっと忘れてた。泣かせてごめん」
「ごめんじゃすまない」
 私は顔を上げた。フライディは真剣な顔で私を見ていた。初めてのキスの思い出が『ごめん』で終わるなんてあんまりだ。
「やりなおし。最初から」
「ロビン」
「お誕生日おめでとう、フライディ。お誕生日プレゼント。受け取って」
 私はそう言って手を前についてフライディの方に身を乗り出した。唇が震えた。耐え切れなくて目を閉じてしまったけど、そのままフライディの気配に顔を寄せた。嫌ならせめて頬で受けて欲しい、そう願いながら。
「ありがとう、ロビン」
 そう言う声がして、優しい唇が迎えにきてくれた。自分の心臓の音が数え切れないくらい聞こえてから、唇が離れた。
 
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