フライディと私シリーズ第十五作
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【 II 】 (直接ジャンプ 4. 5. 6.
 

CALLA BOUQUET / kanonn
4.
 少し前にアートとアンの結婚が議会で承認された。これで二人の婚約は公式に認められた。これから各国要人を招待して行われる結婚式の日程を決めたり、その日が休日になるかどうかを決めたりするらしい。
 ここしばらく新聞も雑誌もテレビも二人の婚約について報道しまくっている。アンは外国のフィニッシングスクールを卒業した後つい最近までずっと療養していたからほとんど社交界にも出ていなかったし、何といっても二人が付き合っていたことが明らかにされていなかったので(実際にもそこは微妙な感じだったし)、いきなり発表された婚約で国民は好奇心ではちきれそうになっていたし、次代の国王となる王太子の結婚が決まったことを皆すごく喜んでいるようだった。
 
 プロポーズはいつどこでどんな言葉でされたのか(アートがプロポーズを一度断られたことや、フライディと私が立ち聞きしたあの場面は、公式にはなかったことになっている)、婚約の証に王太子から未来の妃に贈られた指輪は王室に伝えられる宝物のひとつだとか、新しい薔薇の品種に二人にちなんだ名前がついたとかいうようなニュースから、結婚に憧れる女性が増えて結婚産業(というのがあるらしい)が賑わっているとか経済効果がどれくらいあるなんていう分析、それに加えて二人の出会いから婚約までについての(絶対アートもアンもあんなこと言わないっていう台詞だらけの)ドラマや、二人の相性と今後についてを有名占い師が占うといった悪乗りしすぎじゃないかと思うものまで何を見ても二人の結婚に関する話だった。
 
 そこから派生して弟達の結婚についても話題に上がった。これはまるで競馬の予想みたいだった。歳の順でいえば次はベネディクト王子だが今のところ浮いた噂がなく、恋多きチャールズ王子の最新の恋人はまだ大学生でしかも未成年、公式の発表はないが交際中と噂されるエドワード王子とエリザベス王女についてもエドワード王子がまだ大学院在学中、さあ王太子に続いて二着でゴールするのは誰か……
 名前まで出ないだけまだマシだけど、他の皆は公式写真が使われるのに、私だけどこかで撮られた普段着でしかも顔だけぼかしてある疑惑の人物みたいな写真が使われた。『最新の恋人』という言われ方も何となく嫌な感じだ。
 そういうひっかかりはあったものの、そんな報道のおかげでフライディ達兄弟の結婚はただ結婚する二人がそうしようと決めてできるものじゃないってことはよく分かった。フライディとベスの以前の婚約やエドとベスの現在の婚約について、フライディが『内輪での婚約』というわけもやっと分かった。これだけあちこちに影響がでるから、正式に国王の許しを得て議会にかける時まではおおやけにはできないんだ。もちろん婚約指輪を贈られるのもその時だ。
 
 ……ということはつまり、いつか来る(筈の)その時まで、私は恋人らしいプレゼントを貰えないってことだ。
 
5.
 その週の残りはフライディと会えずに過ごし、金曜日に大学の講義が終わってからそのまま寮に戻らずに実家へ向かった。帰ったら両親に誕生日を祝ってもらって、翌日の土曜日は私の昔からの友達や知り合いを家に呼んでの誕生日パーティーだ。片道二時間の距離なので大学の友達は呼んでいないけど、フライディだけは落成式から戻り次第来てくれることになっていた。
 
 パーティーは昼過ぎにはじまった。久しぶりに会う友達や懐かしい知り合いと挨拶をしたりされたりしていたら、大きな体で目の前がかげった。と思ったら頭の上から声が降ってきた。
「キャット、久しぶり」
「フランクなの? 本当に久しぶり。何年ぶりだろう。元気だった?」
 最後に会ってからずいぶん経つ。これだけ背が伸びてるのに顔だけ子どもっぽいのが似合ってなくて妙におかしい。ヒールの高い靴を履いててこれじゃ、普段なら首が痛くなるくらい見上げることになりそうだ。一緒に来て下さったフランクのご両親が私の両親と話している間に、フランクと私もお互いについてやそれぞれの両親についての近況を教えあった。
 その時ダイニングホールの入口に誰かが案内されてきたのが目の端で見えた。そちらを向くと、スーツ姿のフライディと目が合った。予定より早く来られたんだ。自然に顔がほころんだ。
 笑顔で頷いてみせたらフライディがゆっくりと近づいて私の隣に立った。俺の女に手を出すなって感じのべったりじゃないけど、親しさを感じさせてなおかつ何かあればいつでも私をかばえるくらいの距離。本当にフライディってこういうとこ天才的に上手い。
「フランク、紹介するわね。こちらはチャールズ。私の最新の恋人」
 フランクが少しがっかりしたような顔をした。それをこそばゆく感じながら、今度は隣に立つフライディを見上げた。
「チップ、こちらはフランク。彼は私の最初の恋人よ」
 フランクが嬉しそうに少し背筋を伸ばした。フライディは一瞬眉を上げたがすぐ私に笑いかけた。
「つまり君の最初の犠牲者ってわけだ。……よろしく、先輩。お互い苦労するね」
 フライディは自分よりも背が高いフランクに手を差し出して、握手を交わした。
 
6.
 お父さんに呼ばれたフランクがその場を離れてすぐ、フライディが預け忘れた荷物があると言いだした。
 クロークルームにした客用寝室に案内すると、入るなりフライディは目を細めて私に向き直った。
「『最新の恋人』なんて言い方するからおかしいと思ったよ。僕と彼の間にあと何人いたのかは訊かないけど、他に恋人がいたなんて君は今まで一度も言わなかったじゃないか」
 わぁ、もしかしてフライディ、妬いてる? まさか怒って……はいないよね。
「今まで一度も訊かなかったじゃない。それに『いつも一人しかいないよ』」
 すまして答えたら、怖い顔をしてたフライディが噴き出しそうになって横を向いてごまかした。ささやかな復讐を果たして私はすごくすがすがしい気分になれた。いつか言い返してやろうと思ってたんだ。向き直ったフライディももう目は笑っていたけど、それでもまだ追及の手は緩めなかった。
「それで彼はどこの誰だって?」
「フランクは、お父さんの取引先の農場の息子さん。小さい頃によく遊びに行ったんだ。私のこと好きって言って花束くれて、二人でデートしたの。だから最初の恋人。あ、そういえば男の人から最初に花をもらったのもあの時かも」
「ふーん」
「『ふーん』って何?」
「『ふーん』は『ふーん』だよ。いつ頃の話?」
「気になる?」
「別に。君と別れるなんて見る目のない奴だ」
 本当にフライディって素直じゃない。笑いながら本当のことを教えてあげた。
「ひと夏の短い恋だったの。その時フランクはまだ5歳で、次の夏には私のこと覚えてなかった」
 フライディも今度は横を向いたりせずに素直に笑い声を上げた。
「さっきの言葉は取り消す。若いのにずいぶん見る目のある奴だったんだな」
 
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