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SS#006(F&Iシリーズ)
 
■ダイヴ・イン
 
 こめかみにがんがんと響く鼓動の向こうから、低い囁きが耳に届く。
 
「怖い?」
「大丈夫」
「ペースが速すぎたら言って。君に合わせる」
……ほんとはちょっと怖い」
「ダイビングと同じだ。深呼吸して。ちゃんと息ができるって分かるから」
「私、最初のオープンウォーターで漂流しちゃったんだよ」
「大丈夫だ、バディ。僕は絶対に君を置いていかない」
「絶対に?」
「絶対だよ。だから――余裕があれば楽しんで」
 
 水面にエントリーした時のような混乱に襲われて思わず握ったこぶしを、上から包むように握られる。促されてこぶしを開くと指と指が絡まる。大きく深呼吸をする。
 
 大丈夫。バディはここにいる。私はここにいる。そして――ダイヴ・イン。
 
end.(2010/03/24)
 
 →時系列の話(最初から) →時系列以外の話
 
舞踏会で誰もいないフロアに出て行く時とか、婚約記者会見の直前とか、スカイダイビングの初降下とか、あるいはもっとプライベートな時間とか、お好みのシチュエーションでご想像下さい。

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