SS#012(F&Iシリーズ)
■ひげとしっぽ
「フライディ」
少しかすれた声でロビンが僕の名を呼ぶ。その短い呼びかけには、便箋何枚にも綴られたラブレターと同じくらいの量の愛情と信頼が込められている。
僕をフライディと呼ぶのは世界中でただ一人、ロビンしかいない。ロビンをロビンと呼ぶのも世界中で僕一人だ。
ロビンの手を探りあて、口元に引き寄せてキスを落とした。手が熱くなってる。ロビンが眠りに落ちるまで、あとわずかだ。
「愛してるよ、ロビン。世界一可愛い僕のロビン」
「フライディ」
「なあに?」
「王子様みたい」
「ご不満なら改めるよう努力するよ。ワイルドな方がいい?」
ロビンが低く笑った。いつもの生き生きとしたロビンも大好きだけど、こういう時のロビンにはまた別の魅力がある。結局僕は、どんな時のロビンも大好きなんだ。
「初めて会った時みたいに?」
「どっちが好き?」
返事がかえってくるまでにしばらくかかった。もう寝てしまったのかと思った頃に、やっとロビンが言った。
「どっちでも」
ロビンが体温と柔らかさを感じる距離まで僕にすり寄ってきた。邪魔だと押しのけそうにない相手を見定めた猫のように。長い尻尾がついてないのが不思議なくらいだ。ロビンに尻尾がついてたらきっと可愛いだろう。
「でも髭は、ない方が――キスする――とき――」
間延びした言葉の続きは寝息になった。抱き寄せても、くったりとおとなしくされるがままになっている。
やっぱり尻尾はない方が、ベッドの中では邪魔にならなくていいかもしれないな。
end.(2011/07/04)
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