長い休みが欲しいなら最初からメーカー系狙っておけばよかったっていうのはその通り。
休みが暦通りならまだいいじゃない、休日が稼ぎ時のサービス系はそもそも大型連休に休みなんてとれないんだから、っていうのもその通り。
私のいる部署だって、月の初めの三日間こそ「這ってでも来い」とは言われるけど、他の人の休みや出張と締日に被らなくて業務量が少ない時なら有休だって取れないわけじゃない。労働条件は決して悪くない。
でもほんのちょっとだけ……同じ電車に乗る大きなバッグを持った楽しげな人々をうらやましく思ってしまうのは、仕方がないことだと思う。どんな理由があろうと目の前の彼らはこれから遊びにいくところで、私は会社にいくところなんだから。
そうして着いたいつもより人の少ないオフィスで、既に机の上に積み上がっている処理待ち書類の山をみつけて思わずため息が漏れた。
そもそもたとえ大型連休の合間であろうと、月の第一営業日に休みなんてとれるわけがないのだ。この書類を全部来週に回したりしたら週明けに恐ろしいことになっただろう。
むしろ第二営業日の処理分まで片付けてから連休に入れてラッキーと思え、私。
午前中いっぱいかかって、書類の山は半分くらいに削られた。
でも午後はまた社内便が届いて朝と同じくらいの山がもうひとつできるはず。
早番で昼に出ていた課長が戻ってきた。ディスプレイから目を離さず、入力の手を止めずにおかえりなさいの声をかける。
「ただいま。はい」
ディスプレイの横に差し出されたのは、スズランの花房。
「どこで配ってたんですか?」
思わず振り向いて訊いた私に、課長は心外だという顔で答えた。
「使い回しじゃねーよ。メーデーだからな」
「メーデー?」
「知らないのか? フランス人はメーデーにスズラン贈るんだぞ」
「課長フランス人だったんですか?」
「おう。国歌も歌える」
「歌わないで下さい」
課長をびしっと止めておいて、受け取った花房を手にした。生花のコサージュみたいに茎が栄養剤の入った容器に挿してある。よくできたミニチュアみたいな鈴の形の花からは、甘くていい香りがした。
仕事は嫌いじゃない。むしろ好き。
ちょっと調子にのりやすいけど、親切な上司にも恵まれてる。
さっきまでは皆が遊んでいる時に働いている自分をちょっぴり可哀想に思ってたのに、すずらんの花一房であっさり気分が上向いたりする、気持ちなんてこんなもん。
「さあ、午後もばりばり働けよ~、今日は労働者の日だからな」
「はいは~い」
やる気のない返事をして、すずらんの香りに包まれて、私は仕事を再開した。
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