ショートショート Dive into
こめかみにがんがんと響く鼓動の向こうから、低い囁きが耳に届く。
「怖い?」
「大丈夫」
「ペースが速すぎたら言って。君に合わせる」
「……ほんとはちょっと怖い」
「ダイビングと同じだ。深呼吸して。ちゃんと息ができるって分かるから」
「私、最初のオープンウォーターで漂流しちゃったんだよ」
「大丈夫だ、バディ。僕は絶対に君を置いていかない」
「絶対に?」
「絶対だよ。だから――余裕があれば楽しんで」
水面にエントリーした時のような混乱に襲われて思わず握ったこぶしを、上から包むように握られる。
促されてこぶしを開くと指と指が絡まる。大きく深呼吸をする。
大丈夫。バディはここにいる。私はここにいる。そして――――潜っていく(Dive into)
end.(2010/03/24)
※舞踏会で誰もいないフロアに出て行く時とか、婚約記者会見の直前とか、スカイダイビングの初降下とか、あるいはもっとプライベートな時間とか、お好みのシチュエーションで
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