ショートショート コスチュームと気合
ハロウィンといえば仮装パーティだ。ということでチップの提案で衣裳部屋に来た二人は、ちょうどいいコスチュームを物色中だった。チップはキャットに向かってとうとうと自論を披瀝(ひれき)していた。
「かぼちゃぱんつも白タイツも、恥ずかしがるから似合わないのさ。どうせならそのコスチュームを堂々と着こなす自分をアピールすればいい。要は気合の問題だ」
興味なさそうに聞き流していたキャットが小物の入った引き出しを開け、すかさず言った。
「じゃあウサギの耳つけて語尾にぴょんつけて喋って」
「却下」
「ふうん、やっぱり恥ずかしいんだ」
そのキャットの口調の何かが、チップのスイッチを入れた。
「後悔するなよ」
チップはウサギの耳がついたカチューシャをキャットの手から取り上げて自分の頭につけ、キャットに顔を寄せてささやいた。
「多産の象徴『ウサギになって』なんて大胆に誘われたらわくわくするぴょん」
ウサギの耳で耳たぶを撫でられたキャットがびくんと跳び上がり、慌てて叫んだ。
「待って! やっぱりウサギは中止! ねっ、猫にしてっ!」
真っ赤になったキャットが、手に握り締めた猫耳カチューシャを護符のように掲げた。
「『僕は』恥ずかしくなかったよ」
君は違うみたいだけど、のニュアンスを匂わせながら、チップが猫耳につけかえ、今度はいきなりキャットの足元に身を投げ出した。
「ああっ、君はなんてセクシーなメス猫なんだにゃん」
キャットは膝下に腕をからめて頬ずりされ、悲鳴を上げた。
チップがキャットを見上げてにやりと笑った。
「後悔してる?」
「してる、だから、ごめん」
一言ずつ区切って、真っ赤になったキャットが謝ったので、チップはさっさと立ち上がった。猫耳をつけていてもその堂々とした態度はさすが一国の王子と見る人をうならせるものだった。……もっとも唯一の観客、キャットの方はろくに見ている余裕もなかったが。
「オスが身を飾るのはメスの気を惹くためだよ。これは君の方が似合うね、いたずら猫ちゃん」
チップは自分の頭から猫耳カチューシャを外してキャットにつけかえ、ひょいと横抱きにすると真っ赤になった恋人にキスをした。
end.(2011/10/20ブログ初出)
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