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ショートショート アフター・クリスマス

 ロビンの車が木立の向こうから姿を現した。
 車は玄関ポーチの車寄せに勢いよく滑り込み、階段の下でタイヤを鳴らして停まった。

「おかえり」
 階段の上で待っていた僕が両手を広げると、一週間ぶりに会うロビンは階段を駆けあがって勢いよく腕の中に飛び込んだ。
 僕はしがみつくロビンをぎゅっと抱きしめる。ロビンも負けじと一層力を込める。お互いの引力に引き寄せられ、ひとつになろうとする生まれたばかりの星のように。

 ああ、僕のロビンが帰ってきた。

「顔を見せて」
 そうささやくと、ロビンは僕に両腕を回したまま背中を反らして顔を上げた。
 僕も片手でロビンを抱きしめたまま、もう片方の手でロビンの額から、しがみついたせいで乱れた前髪を払い、手のひらで頬を包んで親指で頬骨をなぞった。
 ロビンは気持ち良さそうに目を閉じされるがままになっていた。
「頬が少し丸くなった」
「ずっとごちそうだったから」
 そう言って、ロビンが目を開けにこりと笑ったところがもう我慢の限界だった。
 
 笑った唇に、まぶたに、頬に、鼻の頭に、額に、可愛いそばかすの上に、また唇に。

 愛しさを抑えきれずに僕が落とすたくさんのキスを、ロビンは目を閉じて辛抱強くやりすごした。
 これじゃまるで口唇期の赤ん坊みたいだ、と気付いたら急に自分のやっていることが可笑しくなった。
「お待たせ、ロビン。もう終わったよ」
 声をかけるとロビンは片目を開け、自分の腕を僕の腰から首へ移した。
 
 それからが本当の、恋人同士のキス。
 一週間ぶりのキスは僕が覚えていた以上に甘くて気持ちのいいものだった。
 どうして最初にこのキスをしなかったんだろう。
 ロビンはただ可愛いだけのお人形みたいな女の子じゃない。ロビンが自分からしてくれるキスがどんなに素敵かは、とても言葉で説明しきれない。かといって誰かに実地で体験させる気はさらさらないけど。

 キスの後でもう一度ロビンをぎゅっと抱きしめた。
「会いたかったよ」
「私も」
 それから僕達は、車のエンジンがかかりっぱなしだったことに気付いて二人で笑い合い、エンジンを切り荷物を車から取って屋敷の中に入った。
 
「はい、これ」
 居間シッティングルームのソファに並んで座ってお茶を飲んでから、僕は例のシークレットサンタからのプレゼントをサイドテーブルの引き出しから取り出し、箱ごとロビンに差し出した。
「本当だ! 箱だけ見ると全然分かんない」
 驚きの声を上げたロビンは、行き違いのあった中身について思い出したらしく急に気まずい顔をした。
「ねえ、フライディ。……本当に、『あれ』欲しい?」
 クリスマスの翌日、ロビンは何事もなかったかのように電話をかけてきたが、『あれ』については一切触れなかった。
 そのまま忘れたふりでやりすごせずに、自分の言ったことに責任を持とうとするロビンの律儀なところはなんとも愛らしい。

 でも、僕がロビンに求めてるのは隷属じゃない。
 
「いや。君のきわどいジョークを楽しまなかったとは言わないけど」
 ここでロビンが照れ隠しに振り上げたクッションを避けてから、僕は続けた。
「『あれ』をしなくても君は僕のもので、僕のところに帰ってくるんだろう? 僕のうぬぼれかな?」
 そう言って、ロビンをじっと見つめた。
 ロビンは無言で僕を見つめ返し、みるみる赤くなっていく。
 
「……本当にフライディって、嫌味な自信家で、ふざけてて」
 ロビンは怒ったようにそう言って、僕にすり寄ってきた。
「誰よりも君のことを愛してて、君の下僕で」
 そう言いながら僕はロビンを自分の膝に乗せた。
「平気でキザったらしいことが言えて」
 ロビンが僕の首に腕を回した。
「それで、質問の答えは?」
「――フライディが嫌だって言っても絶対に離れないからね」
「君は最高のバディだ」
 そこからはもう僕たちに言葉は必要なかった。
 
end.(2012/01/24)

おまけ

「ところで君は僕に『あれ』をつけたいと思わないの? 『あれ』がお気に召さないようなら昔ながらのやり方で君のハンカチを腕に巻いてくれても構わないんだよ。ハンカチじゃなければ袖をちぎってくれても。
 それにしても昔の女性はいつどうやって片袖をちぎって愛しい男性に渡したんだろうね。昔の服は着るたびに袖を縫い付けていたらしいけど、君だったら片袖をなくした言い訳どうやってする?」
「私、たまにフライディに『あれ』じゃなくて口輪つけたくなるんだけど」
「君の望みとあれば。ただしキスのたびに痛い思いをするのは君だし、きっと君の顔が口輪の跡だらけになるよ。それでもいいなら君の印をつけてくれ」
「もう!」

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