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Holidays -1- うたた寝

※ベス視点


 今年の夏も例年どおり海辺の別荘に来ていた。
 この秋に大学入学を控えたキャットを招待したのは、すぐそばの別荘にこれも例年どおりにチップとエドが滞在することを知っていたから。
 もちろんチップに便宜をはかるためじゃない。エドと過ごす楽しい時間をチップへの応対で減らしたくなかったのと、何というか……うぬぼれかもしれないけど、私とチップの会話が増えるとエドの元気がなくなるような気がするから。

 去年までと違って彼らは毎日のように誘いに来た。これはほぼ予想通り。でも身の回りの世話をする家の者も何人もいるし、別荘にこもりきりになったりせず夜にはちゃんと帰ってもらうようにして、悪い評判が立たないようには気をつけていた。
 特にチップにはキャットと二人きりで部屋にこもったりしては駄目よって、きちんと言っておいたのに。

 テラスの椅子で眠ってしまったキャットを部屋に寝かせにいったきり、チップはもう三十分も帰ってこない。

 私にはご両親から彼女をお預かりしている責任があるので、二人に注意をしなくてはと階上のキャットの部屋へ向かった。

 部屋の扉は開いていたが、物音はしなかった。内側に向かって開いている扉に手を伸ばし、軽くノックすると応える声がした。

「ちょうどよかった、ベス。キャットのサンダルを脱がせてほしいんだ」
 ヘッドボードに背中を預けベッドに座ったまま、チップは私を半分振り返ると悪びれる様子もなくそう言った。
「キャットを寝かせたのならもうあなたは部屋から出てちょうだい」
「それが駄目なんだよ。キャットが離してくれないんだ」
 チップはなんだか嬉しそうにそう言った。

 ベッドサイドまで近づいてみると、キャットが眠ったままチップのシャツをしっかりと握り締めていた。
「はずしたらいいでしょう? 寝室で二人きりなんて、いくら扉が開けてあっても良いこととは言えないわ」
「うん、そうなんだけど。とりあえずサンダルを頼むよ。届かなくて」
 憤慨しながらもキャットが履いたままだったサンダルを脱がせた。キャットは溜息のような寝息をひとつたてたが目を覚ます様子はない。

「チャールズ。非常識だってことはよく分かってるでしょう? 悪い評判が立ったってあなたは傷つかないでしょうけど、キャットが傷つくのよ?」
「キャットのお父様が」
 ベッドを降りる気配のないチップがキャットの額にかかった前髪を払うと、彼女を見つめたままこちらを見ずに続けた。
「島から帰った後で、よく夜起きて僕を呼んでたって言ってたんだ。最近はほとんどないみたいだけど、それでもやっぱり、『一緒にいたのに起きたら一人』なんてことにはさせたくない」

 この二人は普段は全然そんな様子を見せないくせに、時折こうやって、この世界に二人だけしかいないみたいにお互いを庇いあう。

「★ずるいわ、チップ」
「え?」
「そんなこと言われたら、あなたを追い出そうとしてる私が悪者みたいな気がするじゃない」

 深く息を吸って吐いたら、心が決まった。多分キャットのご両親、少なくともお父様は分かって下さるだろう。

「いい? 部屋の扉は絶対に閉めては駄目よ」
「大丈夫、僕はここから動けないから閉めようがない」
 私を見上げたチップがあんまり嬉しそうな顔をしたから、つい嫌味のひとつも言いたくなった。
「寝顔見て喜ぶなんて、まるでお父さんね」
「うん、キャットみたいな娘がいたら可愛いだろうね」
 チップが嫌味にも気付かずにそんなことを言うので、私はもうあきらめた。つける薬がない。
「キャットが起きたらちゃんと降りてくるのよ」

 私はそう言い捨て、扉を開けたまま二人を残してキャットの部屋を後にした。

end.(2009/08/16初出)

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