フライディと私◆GIRL POWER
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キャットはチップだけには、今回起きたことと友達に言われたことと自分が思ったことと、あらいざらいを打ち明けた。
そして最後に言った。
「今回よく分かったけど、人にいくら嫌われても全然平気だと思ってたけど、好きな人に嫌われたかもって思うとものすごーく凹むね」
キャットが得た教訓に、七つ年上の恋人は大げさな身振りをつけて驚きを表した。
「何だって!? 君はその歳になるまでそのことに気付かずにいられたのか!?」
「そこまで驚くことじゃないでしょ? それとも私のこと鈍いって言いたいの?」
からかわれているのかと疑いのまなざしを向けたキャットに、チップは人の悪そうな笑顔を浮かべて言った。
「いや、本当に羨ましいと思ってるよ。こっぴどく振られたり家族や友達に嫌われたりしないと、ここまで真っ直ぐに育つんだなって」
キャットはいきなりチップに飛びついて力一杯抱きしめた。
「私は絶対にフライディのこと嫌いになったりしないよ!」
チップは幸せで胸が詰まらせ、腕の中の無邪気で暖かく柔らかい宝物を壊さないぎりぎりの力で抱きしめ返した。
「僕みたいに曲がりくねった人間を嫌いにならずにいられるなんて、君は本当に聖母みたいだ」
――しかしこの宝物にはよく喋る口がついていた。
「だって」
キャットは言い始めた時にはもう笑い出していた。
「『ねじれた薪もまっすぐな炎を立てる』って言うじゃない?」
そのまま笑い転げる恋人を抱いたまま、チップがわざとうんざりした口調で言った。
「君はいつも僕を踏みつけにする生意気で口の減らない小娘だけど、僕はそんな君をどうしようもなく愛してるよ」
チップの言葉であることを思い出したキャットが、ぱっと顔を上げて目を躍らせて言った。
「そうだ! あのね、ローズってフライディみたいな人ぜんぜんタイプじゃないんだって」
チップはうんざりした口調を続けたが、嬉しそうな恋人に笑みを向けられて不機嫌な顔は続けられなかった。
「どうしてそれでそんなに嬉しそうにしてるんだ? 僕が魅力に乏しいって言いたいのか?」
こう言った時もチップはキャットの愛情を毛筋一本分も疑ってはいなかったが――
――彼の信頼は正しく報われた。
「ううん、フライディと付き合ってるからってみんなが羨ましがるわけじゃないって分かって嬉しいの! フライディのこと好きな子は少ない方がいいの!」
チップは考えた。
自分は本当にこの可愛らしい宝物の愛情を受け取るに値する人間だろうか。
そしてすぐに答えを出した。
いや、どう考えてもキャットにとって割の悪い取引だ。むしろボランティアと言ってもいいかもしれない、と。
「ロビン、たとえ世界中の全ての女性が僕を好きになったとしても、時々君に高いところのものを取るのにちょうどいい踏み台みたいに扱われても、」
「私そんなことしないよ!!」
「それでも僕の愛と忠誠は君だけのものだ。ねじれた薪にかけて」
「そんなふざけた誓いで怒らないのなんて私くらいだからね!」
「『許す』と言ってくれ」
そう言いながらチップは返事を待たずにキスをした。
キャットもしっかりとそれに応えた。
キャットはキスの後で文句を言った。
「言えって言ったのにキスしたらだめじゃない」
「そういう時はモールス信号を使えよ。一度覚えておけば声が出せない時も大事な話ができる」
「じゃあやり方を教えて」
そう言いながらキャットは返事を待たずにキスをした。
チップもしっかりとそれに応えた。
end.(2015/04/11)
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