ページの端◆魔女母娘
小二の頃、隣の借家に魔女っぽい母娘が引っ越してきた。
母親は玄関先で娘の首にマフラーを巻いて何か短い呪文のような言葉を口にする。娘も同じ言葉を繰り返す。
仲良くなったら何と言っているのか聞こうと思ったのに、俺が盲腸で入院してる間に隣はまた引っ越してしまった。
*~*~*
何年も経ってから英語の授業で、英語ではくしゃみをした人に"Bless You"というんだと教わった。
あの家族は外国人だったんだろうか。
もう顔もはっきりと思い出せない母娘のことを、そんな風に考えた。
*~*~*
更に何年も経った今年。
模試の会場で後ろから聞こえた声にはっとした。
「フーチフーチ」
これだあっ!
全然英語じゃなかった!
見知らぬ女子にとびつくようにして話しかける。
「それ何!?」
「えっ、風池? 首の後ろのツボ。ここあっためると風邪ひかないの」
……子供時代の魔法が色あせ、当たり前の景色に変わった瞬間。
「っていうか坂下くんだよね?」
どこかで見たような顔の彼女が笑う。
心臓がドキドキする。
視界のホワイトバランスに補正が入る。
俺は新しい魔法にかかったみたいだ。
Copyright © P Is for Page, All Rights Reserved. 転載・配布・改変・剽窃・盗用禁止