ページの端◆見た目的に無理。
見た目的に無理。
中学の時に好きだった男の子に言われた言葉だ。
さすがに面と向かってではない。坂上君はそこまで鬼畜じゃない。
ただ、隣のクラスの私がいつも坂上君を見ているのはバレバレだったらしくーー
「あの子いつも坂上のこと見てるよな。好きなんじゃね?」
「えーマジー坂上モテ男!」
「顔はふつーだけど意外と胸あるよな」
「胸っていうか全体的にデブじゃん」
「坂上クン付き合っちゃえよ」
そんな周囲のひやかしに坂上君はこう答えた。
「ないな。見た目的に無理」
その言葉は、冷たくて痛くて重かった。尖った氷が背中に突き刺さったみたいだった。
ヒュッて変な声が出て「映画とかのやられ役みたいだな」って全然関係ないこと思ったのを覚えてる。
……そうして調理実習で作ったカップケーキの差し入れも、バレンタインデーも、卒業式の告白やボタンくださいイベントもスルーし中学時代は終わった。
あ、でも彼の友達の「全体的にデブ」って悪口のおかげで痩せました。感謝はしてない。
高校デビューでメイクにはまり、別人顔になった私は十年後、バイト先の喫茶店でよく来る坂上君に口説かれて思わず言った。
「あのー、覚えてます? 坂上君て中学の時わたしのこと『見た目的に無理』って言ってたんだけど」
「マジかー?!」
その場にしゃがみ込んで頭を抱えた坂上君。
ケケケ、苦しめ苦しめ。
ここでキッパリ振ったら格好良く終わるんだけど、「この後時間ある?」って誘われてついてっちゃったのは好きだった男の子に告られて浮かれてたせい。
連れて行かれたのは坂上君の家だった。
ドアを開けたのはなんだか親近感の湧く顔をしたふくよかな女性。……あなたはわたしの生き別れのお姉ちゃんですか?
そんなの想像つくわけないじゃーん!!
中学時代のわたしが坂上君の兄嫁さんにそっくりだったなんて。
反抗期真っ盛りの坂上君が、同居をはじめたばかりの義理のお姉ちゃんと距離を置きたがってたなんて。
「今まで十年も顔面コンプレックス抱えてきたんだから、これから十年ちやほやしてもらわないと収支が合わないよなー」
横目で坂上君を見ながらわたしが言うと、坂上君はお代官さまーって感じで土下座して言った。
「十年でも二十年でもちやほやさせていただきます」
ーーここまで言われちゃ断る理由ないよね?
Copyright © P Is for Page, All Rights Reserved. 転載・配布・改変・剽窃・盗用禁止