ページの端◆水晶の鳥
かつて母の実家には羽根の一本一本まで繊細に彫られた水晶の鳥があったそうだ。
いわれを聞く母に祖母は「女中が掃除を怠けていないか確かめるために置いてある」とうそぶいていたらしい。
女中は女中で「他の場所の掃除は手抜きでもこれを磨いておけば奥様は気づかない」とうそぶいていたらしい。
やがて祖母が亡くなり、遺言で女中に遺されたという鳥の行方は分からなくなった。
その話を聞いてから私は時々その後を想像した。
例えば祖母亡き後も毎朝筋ばった手で水晶を磨き上げる女中の姿を。
あるいは役目を終え、どこか高い高い場所から投げ落とされる鳥の姿を。
そんな中で私がいちばん好きな想像は、さっさと鳥を売り払い、祖母から遺されたお金で悠々と世界一周の船旅に出る老女の姿だ。
想像の中の彼女はきりりと背筋を伸ばし、羽根飾りのついた小粋な帽子をかぶり、手すりを磨く水夫の手際の悪さに口を出したくてうずうずしている。
たぶんそんな彼女の背後では、道草をくっている祖母の霊がにやにやしている。
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